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まあ、ここらへんまでは、やや強引な部分があっても事実に基づいているので、読み続けるのにそれほどの抵抗感はない。 第二次大戦後のIMF(国際通貨基金)も世界銀行も、同じように破綻した国にアメリカの税金を投入させるために作られたと論じ、本当の目的は金融の仕組みを利用することで「世界社会主義」を打ち立てるためのものだといい出すあたりから、この本への疑念が生まれてくる。
社会政策、政治政策という性質が色濃いことがわかる。 不思議ではない。
そもそも世界銀行は社会的・政治的変化をめざして創設された。 創設者たちがめざした目標は世界社会主義を打ち立てることであり、いま成果は着々とあがっている」こうした世界社会主義への運動は、驚くべきことにイギリスの社会主義者で美術批評家だったジョン・ラスキンに源を発し、その弟子であり「ローズ奨学金」で知られるセシル・ローズに引き継がれ、彼が作った秘密結社が中心となって進めてきたとグリフィンはいう。
しかも、この秘密結社のアメリカ支部がシンクタンクとして知られる外交問題評議会(CFR、本書では外交関係評議会と訳されている)であり、ベイカー元国務長官も、ブレィディ元財務長官も、ブッシュ(父)元大統領も、もちろんローズ奨学金を受けたクリントン元大統領も、みんな「CFR」の一員で、人類を支配する世界社会主義を目指しているのだ。 したがって、グリフィンは、この大陰謀を阻止するために、世界金融の要になっている連邦準備制度を廃止せよと主張するのである。
膨大な分量にもかかわらず、巧みな筆さばきで書き切っており、ひとつずつディテールの誤りを指摘するのは、なかなか骨が折れる。 たとえば、グリフィンは、IMFを作ったのは共産主義者ハリー・デクスター・ホワイトと社会主義者ジョン.M・ケインズの共謀だったという。
たしかに、ホワイトはマッカーシー旋風のさいに自殺に追い込まれたし、また、ケインズの知人に英国流の社会主義者がいたことも否定できない。 実際には二人がアメリカと英国の国益を背負って激しく対立したことは知られている。

とてもではないが、二人が共謀者だったという説を受け入れるわけにはいかない。 では、このグリフィンとはどのような人物なのか。
ちょっと他の著作を見てみよう。 まず、六四年刊の『恐怖の主宰者』(ウエスタン・アイランズ)は、国連が社会主義者に乗っ取られつつあるという話で、時代背景を考えればごく自然な発想だろう。
七一年の『資本家の陰謀』(H・B・ペイトリオッッ)は秘密結社イルミナティが世界を支配しつつあるというものであり、七四年の『癌のない世界』(アマー・ミディア)は癌の特効薬ができているのに、医薬産業シンジケートによって発見が隠蔽されているという説なのである。 ことに『資本家の陰謀』は、自作のドキュメンタリー映画のナレーションを元に作られた小冊子で、表紙では秘密結社イルミナティのシンボルとされる一ドル札に描かれた「万物を見通す目」が強調されていて、内容も「陰謀史観」そのものだ。
ここでいう「資本家」とは銀行家のことで、やはりセシル・ローズの秘密結社が中心となり、金融を通じた世界政府を目指しているが、このパンフレットでは陰謀の起源は十八世紀のババリアに生まれた秘密結社イルミナティにまで遡れることになっている。 グリフィンに向かって、「お前の説は陰謀史観だ」といっても無駄だろう。
このパンフレットには次のようにある。 「陰謀。
人間の言葉のなかでも、もっとも陰鯵なもののひとつだ。 歴史には、執念深い陰謀の目が、少しもちらつかないようなページは存在しこの人物は、自説を信じているのかどうかはわからないが、筋金入りの陰謀史作家であることは間違いない」。
では、こうした主張を前面には出さず、イルミナティという言葉も一回しか出てこないが、論理の構造は他の「作品」と同じである。 欧米の世界支配をめぐる秘密結社の陰謀史には、フリーメーソン系、ユダヤ系、イルミナティ系、スカル.アンド・ボーンズ系、これらの複合型があるが、ユダヤ系の連邦準備制度世界支配説で知られているのは、邦訳もあるユースタス・マリンズの『民間が所有する中央銀行』(秀麗社)で、同書も「連邦準備制度こそ、世界共産主義の唯一の財政的支援者である」と述べている。
銀行が持つ「信用創造」という無から有を生み出すにも似た機能や、お金を印刷できる中央銀行の「通貨発行権」という権力は、一般人の経済活動からすれば陰謀めいたものに見える。 だからといって、それが必ずしも世界支配を企む秘密結社と結びつくわけではない。

洗練された陰謀ものでは、間違いのない事実も述べられているので、この本はおかしいと思っても、すべてを否定するのは難しい。 おそらく『マネーを生みだす怪物』に出てくる事実関係を詳細にチェックして反論するのは、この本を書くよりずっと労力がかかるだろう。
ただし、こうした類の本には共通した「論理の構造」がある。 「背後で何者かが決めている」という論理にこだわることだ。
こうした陰謀ものの作者は、肝心なところにくると「もっと上の人」とか、「表に出てこない組織」によって自説を正当化しようとする。 実は、「もっと上の人」や「表に出てこない組織」が決めているという前提があって、そこから「事実の指摘」がなされているというのが、彼らの主張の「論理の構造」なのである。
何かに似ていないだろうか。 悪い奴がカミナリに当たって死んだとする。
これを神様が下した天罰だと現代人もこうことはあるが、本当に信じる人は稀だろう。 未開人にはこうした天罰を信じる人たちもいた。
そこで、十九世紀の文化人類学者エドワード・タイラーは、これを未開人の「連結の原理」と名づけた。 「連結の原理」を行なうのはいわゆる未開人だけではない。
文明人(と思っている人)も似たような考え方をすることは珍しくない。 二十世紀の文化人類学者レヴィストロースは、原因と結果を「因果関係」で論じる点では、未開人も文明人も同じだと考えた。
ただし、未開人があらゆる現象について因果関係だけで論じる傾向が強いのに、文明人はレベルを分けて注意深く因果関係を適用するのである。 ニワトリを食べたら人間が病気になった。

そこで、未開人はそのニワトリが魔物だと思うかもしれない。 十九世紀の医者は、ニワトリから細菌を検出しようとして失敗し、原因不明の病気だというだろう。
二十世紀の医者は、ニワトリから細菌より小さなウィルスを検出して、トリ・インフルエンザのウィルスが原因であり、ニワトリを経由して感染した結果が人間の病気だと理解することになる。 因果関係を見出す点では同じだが、そのレベルがまったく異なっているのだ。
アメリカの連邦準備制度が中心となって発行しているドルが、次第に価値を減じている。 それを中央銀行がイルミナティの陰謀に加担して、アメリカ国民から富を巻き上げていると推論するのは、ニワトリが魔物だと思うようなものだ。
ドルが減価しているのはアメリカのインフレ率が他の国より高いからと考えるのが初歩の経済学。 アメリカは経済的損失を承知で、ドルを政治の道具として使っているというのが単純な政治学。

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